|
テムズ川越しに眺めたロンドン塔は、夏の強い日差しを浴びて、ロンドンシティにとけこんでいました。100年前、この場所にたたずんでロンドン塔を眺めていた夏目漱石は、向こう岸から長い手に引っ張られるように感じ、タワーブリッジを渡り、ロンドン塔まで、「一目散に馳せつけた」といいます。
私も、漱石がしたように、ロンドン塔の歴史を脳裏に描こうとしました。向こう岸から何か感じられるかもしれないと・・・。でも、例年になく暑い夏の1日、たくさんの観光客のなかで片手にアイスクリームを持った私を、ロンドン塔は呼んではくれませんでした。
私が、夏目漱石の『倫敦塔』を初めて読んだのは18歳のときでした。十六世紀の血がにじみ出す(漱石がそう思った)壁、黒いカラスなどが、ロンドン塔に込められたイギリスの暗い歴史として私の心に焼きつきました。
イギリスのお城には、幽霊の話がつきもののようです。首なし騎士の幽霊が馬で駆け巡る話、手首を切り落とされたパイプ吹きの幽霊がパイプを吹くなどという話です。幽霊が夜に出るのは日本と同じですが、日本の幽霊は足がないというのが定番で、しかも女性が多いようです。でもイギリスの幽霊は男性が多く、足はついているようです。
ロンドン塔でおこなわれた処刑は、身分の高い人の場合は苦しまないですむように斬首刑、身分の低い人たちは、苦しみを与える方法で処刑されたと言われています。こうした歴史が、イギリスの幽霊として語り継がれてきたのでしょうか。
人波に乗ってたどり着いたロンドン塔の前庭は、チューダ朝期を思わせる明るい建物のお土産やさんと、たくさんの観光客であふれていました。幽霊とお城がセットになって、観光客をあつめているのが、21世紀のロンドン塔なのかもしれないと感じました。
* * *
少し前になりますが、テレビで「番町皿屋敷」の英語落語を外国の女性が演じていました。番町皿屋敷ツアー客の前で、毎日決まった時間に皿の数を数え始めるお菊さんに、ツアー客からやんやの喝采があがります。ある日のこと、お菊さんが9枚で数え終わらず、10枚11枚・・・と数え続けていきます。お客が不思議に思いお菊さんにたずねると、「明日は休みなので、明日の分まで数えた」と言いましたとさ。
|