おりがみトトロのおとしもの ~ “あたりまえの壁”
2009年8月11日
この仕事に就こうと思って以来,
「なぜ保育士になろうと思ったの?」
と聞かれることがよくあります。
僕が保育士の資格を取得したのは,5年程前,保育士としてのキャリアはまだ2年半ちょっとの新参者&未熟者です。
それ以前は,大学院で「地球工学」「環境科学」を専攻していて,地熱(火山・温泉)や岩石の中の鉱物に関する研究に携わっていました(地球環境にやさしいエネルギーとしての地熱研究に関する論文を書いたり,学会で発表したりしていました…)。その僕が保育士の勉強を始めた理由は,自分でもはっきりと意識していたわけではありませんが,”人”について知りたかったからだと思います。
日本で保育士の資格を取得した僕は、大学院をやめて、カナダのカレッジに入学し,「幼児教育」を勉強してきました。 カナダに留学したのは,「英語をもっと理解できるようになりたい」,「他の国の教育制度やカリキュラムなどを知りたい」などということ以上に,
ただ,向こうの「あたりまえの生活」を,自分の目で見て身体で感じたかったからです。
留学先は,カナダのバンクーバーから北へ1000kmほど行った,Fort St. Johnという,人口2万人程,車で10分も行けば突き抜けてしまうくらいの小さな町の唯一のカレッジです。冬は-40℃になり,年間100日以上オーロラの見える小さな町。夏は夜10時頃まで明るくて,冬は朝9時を過ぎてやっと日が昇ってくる,そんな町の4人家族の家にホームステイ。
僕にとっては色々なことが“新鮮”で,“不思議な”環境でした。
でも,そんな「新鮮さ」も「不思議さ」も,現地の人にとっては“あたりまえ”なこと。
「なぜ(幼児教育を勉強しにわざわざ)カナダに来たのか(日本ではできないの?)」と,カナダではよく聞かれました。
カナダの教育制度や,幼児教育の実態を“知る”だけなら,日本にいながらでも,本を読んだりインターネットを通じて調べたりすることはできます。英語の勉強も,やろうと思えば日本にいながらでもできるでしょう。
でも,この町で”あたりまえ”に生活をしている人びとや子どもたちの目線を感じること,そして,日本人の僕がそこで暮すことによって感じる自分自身の目線の”違い”を感じること,これらは,実際の生活に飛び込まない限り知ることはできない,
そう思って,“留学”を決意しました。
違う環境に飛び込むと,それまでとはちがういろんなものが自分の中に入ってきます。そんないろんなものに真剣に向かい合っているうちに,自分の中の埋もれて見えにくくなっていたものに気付いたり,”新しい”何かが自分の中から出てきたりしました。
“新しいもの”は,時として拒否反応や違和感を伴うこともありますが,周りの人びとに支えられたカナダでの生活は,どれも「自分にとって大切なもの」として深く心に残りました。
カナダでの経験は,自分が保育園から大学院まで通ってきた(受けてきた)「教育」への興味となり、さらに,外から「勉強」してみるだけでなく,その(教育の)原点ともいえる「幼児教育」に携わりたい,その現場に飛び込んでみたいと思ったのです。
そして「地球工学」から「保育」への転換。
“あたりまえのこと”があたりまえでなくなった時に,人は今よりもっとたくさんのものと出会うことができる
特に,子ども達にとっては「自分の世界」のみが「あたりまえ」であって,その「あたりまえの世界」が自分の全てです。そんな,一人一人の,一つ一つの「あたりまえの世界」としっかり向き合って,その“あたりまえの壁”をできるだけ柔らかく・動かしやすくすることで,また,壁の向こうにあるものを示していくことで,
そんな環境を提供できる保育士になりたいと思っています。
<山本 信>








